二人を出産して、上の子のヤキモチに手を焼いているママに向けた、ちょっと切ない猫の絵本を紹介します。
表紙の猫は、少し悲しげな表情をしています。そして、猫の視線の先には、赤ちゃんを抱っこしている、お母さんが。
Contents
『ねえだっこして』あらすじ
「わたし」さいきん、つまらない。
大好きなお母さんのおひざには、赤ちゃんがいるから。
ちょっと前までそこは、「わたし」の特等席だったのに、今は赤ちゃんに独占されちゃった。
お母さんは、赤ちゃんにかかりきりで、ぜんぜん「わたし」に構ってくれない。
『ちょっとまってね』『あとでね』っ言うんだ。
赤ちゃんなんて、つまらない。自分で食べることもできないし、顔だって洗えない。
「わたし」は出来るよ。だって、お姉さんだもん。
だけど、だけどさ。
ちょっとでいいから。
「わたし」のことも、抱っこして。
『ねえだっこして』の魅力を3つ解説
『ねえだっこして』が、大人も涙する理由を、3つ挙げます。
- 猫の目線ではあるものの、上の子の気持ちを代弁している
- 猫の表情の描き分けが素晴らしい
- 主人公を「猫」にしたことが秀逸!
猫の目線ではあるものの、上の子の気持ちを代弁しているから
このお話の主人公「わたし」は、猫。
ですが、大好きなお母さんのお膝を取られて、全然かまってくれなくなっちゃった状況は、下に兄弟が生まれたお兄ちゃん、お姉ちゃんの心情に通じるものがあります。
そう。猫の目線ではあるものの、上の子の気持ちを代弁している絵本なんです。
だから、下に兄弟がいる子どもが、この絵本を読むと
「そうなの。ホントは寂しいんだよね」
と、共感する部分が、たくさんあると思います。
でも、この絵本は、本当は下の子がいるママにこそ、読んでもらいたい絵本。
下の子の大変さにばかり気を取られて、上の子の気持ちをないがしろにしてしまったり、寂しさに気づいてあげられなかったり…
そんなことにはっと気づいて、上の子を抱きしめたくなっちゃいます。
猫の表情の描き分けが素晴らしい
表紙の猫の哀愁漂う、せつなげな表情もそうですが、猫の表情やしぐさが、猫なのに人間じみていて、とても魅力的です。
『あかちゃんなんて、つまらない』
と思っている時の、猫のしぐさなんかも、本当に退屈そう。
それから、やっとお母さんに抱っこしてもらった時の、満足気な表情!
心の底から、安心した~と思えるような表情で…。私も思わず、うるっときてしまいました!
主人公を『猫』にしたことが秀逸!
この絵本の主人公「わたし」。
「わたし」は、なぜ、猫でなくてはならなかったのでしょうか?
上の子の気持ちを語っているのであれば、主人公は猫ではなく、人間の子どもにした方が、読んでいる人には直接的にメッセージが伝わります。
でも、直接的な表現は、かえって感情に響かない。
そのいい例を、この絵本は示しています。
仮に、主人公が女の子であった場合。
「下の子が生まれて、寂しい思いをしている上の子の心情」というテーマがわかりやすくなります。
しかし、果たしてこれを読む子どもは、主人公にどのくらい『共感』できるでしょうか?
女の子の顔や髪型、服装、それから住まいなどに共通項を感じなければ、『共感』を感じにくくなったりしませんか?
読者が男の子だった場合には、さらに『共感』は得にくくなります。
この絵本の主人公は「猫」だからこそ、実際に下に兄弟がいる子どもに、共感を与えるのだと思います。
ママにしても、同じことが言えますよね。
これが人間の子どもだったら、なんだか説教じみた感じで、敬遠する人もいるでしょう。
猫の目線で婉曲に描かれていることで、多くの人の共感を得ているのに加え、ストーリーにも奥行きが出ているのです。
『ねえだっこして』の絵本データ
- 作:竹下文子
- 絵:田中清代
- 出版社:金の星社
- 発行日:2004年5月