こんにちは、カピバラです。
演劇にすべてを賭ける、少女たちの青春小説をご紹介します。
とある芝居の主役を射止めるために、少女たちがオーディションで競い合います。
物語の半分以上が、オーディションのお話。
文章を読んでいるだけなのに、本物の舞台を見ているような錯覚を受け、あまりの生々しさに鳥肌がたちますよ!
そんな『チョコレートコスモス』を紹介します!
Contents
『チョコレートコスモス』内容
華やかな容姿と、確かな演劇力を持つ東響子。
『天才』の名をほしいままにし、将来を約束されているかに見える響子には、誰にも言えない悩みがあった。
それは、まだ、芝居の本当の面白さを知らない、ということ。
演劇の世界には果てがなく、一度その面白さを知ってしまったら、きっと後には引けない。
自分には、まだ「あそこ」に足を踏み入れる勇気がない。
そんな響子のもとに、伝説の映画プロデューサー・芹澤泰次郎が、芝居に復帰するという話が届く。
大々的なオーディションが開かれるという、芹澤の舞台。
「それに出られたら、ここがあたしの場所だと覚悟できるかもしれない」
響子は、芹澤のオーディションを受けたいと望む。
しかし、響子の胸中とは裏腹に、オーディションに響子が呼ばれることはなかった。
最終オーディションに残ったのは、4人。
その中には、演劇を初めて数か月の少女もいたが、その少女こそオーディションの大穴、台風の目。
『暗がりの向こう側には、何があるのか?』
真実を追い求める少女たちの、波乱に満ちた舞台がいま、幕を開けようとしていた――。
『チョコレートコスモス』登場人物
- 佐々木飛鳥(18歳)…演劇を始めて間もない大学生。地味で目立たないが、天性の演劇の才能を持ち、芹澤のオーデイションを受けることに。幼いころからやってきた空手により、高い身体能力を持つ。
物語は、このふたりを軸として進んでいきます。
大学の演劇サークルに入ったばかりの佐々木飛鳥は、劇団の旗揚げ公演で初めて舞台に立ちます。
常人ばなれした演技に、芹澤のオーディションを受けるよう勧められ、飛鳥はオーディションに臨むことになりました。
一方、芹澤のオーディションに声がかからなかった響子は、オーディションに参加できるよう、直談判しに会場へ向かいます。
そこで芹澤本人と会った響子は、オーディションの相手役をやって欲しいと望まれ、参加者たちの相手をしていくことになるのです。
- 宗像葉月(20代後半)…人目を惹く容貌ではないが、ここ数年、急速に実力をつけてきた俊才。最近の出演作がどれも当たり役となり、玄人受けが非常にいい。実は、響子とは遠縁にあたり、私生活でも仲がいい。
- 安積あおい(18歳)…大手芸能プロダクション所属の人気アイドル。響子とは、演出家兼俳優の小松崎の舞台で共演。あどけない容姿とは裏腹に、したたかなプロ根性を併せ持ち、演劇への野心も高い。芝居の勘も良く、今後が期待される新人。
- 岩槻徳子(60代半ば?)…往年の映画スターで、大女優。過去に芹澤の映画にも出演している。長年の舞台経験に裏打ちされる演技力で、少女から老女まで幅広い役どころを演じ分ける。芸能関係の人脈を頼りに、オーディションの演技を練り上げてきた。
才能と、個性と、演技力と。
持てるものすべてを出し尽くして、舞台に臨む女優たち。
『チョコレートコスモス』の魅力
『チョコレートコスモス』の魅力を、3つ挙げます。
タイプの異なる女優による、芝居アプローチ
女優といっても、タイプはそれぞれ。
芝居の解釈、アプローチの仕方、演技が違って、それぞれの強みを生かしながら、舞台上で火花を散らしていく。その様子が、とても面白いです。
間の取り方や、舞台での立ち位置、セリフの読み方ひとつで、歓喜だった演劇が、急に一転、がらりと不穏になってしまったり…
飛鳥は、人の仕草を完璧に真似できる、天性の才能に加えて台本をオリジナルの解釈で完成させられる、『演出力』まで併せ持っています。
飛鳥の『演出』により、芝居が変化していく描写が素晴らしく、演出と言う、別の視点から台本を読むことの面白さを感じました。
ひとつの台本が、個性的な女優たちによって、さまざまな解釈で描き分けられている。
このあたりは、恩田陸さんの高い文章力がものを言っています。
オーディションの、ぴりぴりとした緊張感と相まって、臨場感あふれる文章となり、ページをめくる手が止まりません。
天才ゆえの孤独と苦悩
響子も飛鳥も、真の天才です。
でも、ふたりとも、ある悩みを抱えています。
芸能一家に生まれた響子は、幼いころから舞台に立ち、舞台はもはや自分の一部。
けれど、それゆえに、与えられたレールの上をただ歩いてきただけだとも感じています。
女優という仕事を、自分で選んだわけでもなければ、勝ち取ったわけでもない。
最初から、すべてを与えられて、自分で望まぬままにここまで来てしまった。
だから、役者として生きる。その『覚悟』を決められないでいる自分に、悩んでいます。
役者として一皮剥けたいと願い、オーディションに参加させてくれと直談判しに行く響子。
がむしゃらで、ひたむきで、とても人間くさいですよね。
響子の内面が丁寧に描かれている分、人物造形に深みが増していて、東響子と言う人間に説得力を与えています。
そうして貪欲に演技を、芝居を追い求めた結果、響子はある境地へと達し、役者としても人間としても一段上のステージに上がることが出来ました。
一方の飛鳥は、演劇を始めて間もないのに、一度見ただけの演技を、いとも簡単に再現したり、台本をすぐに暗記できたり、常人ばなれした才能の持ち主。
けれど、初めからこの才能を有していたわけではありません。
飛鳥は、演劇をやる前は、空手にすべてを捧げていました。
ある出来事がきっかけで、演劇にのめりこんでいきますが、奇しくも空手の時と同じ壁にぶつかることになります。
舞台の暗がりの向こう側の世界
役者をやっている一部の人間には、舞台の暗がりにある、向こう側の世界の存在に気づいています。
でも、
まだそっち側に行ってはいけない。そっち側に行ったら、二度と引き返せない。
響子がひるんでしまうくらい、そっち側の世界とは恐ろしいもののようです。
それは、創作の場などでよく言われる「神が降りてくる」というあの瞬間、あの境地のこと。
何かを、限界まで鍛えた者だけが到達できるとされる、高み。
芝居にのめりこんで、我を忘れて、役と同化して、意識が飛ぶほどの酩酊感を、一度でも味わえば、もう二度と役者を辞めることはできなくなる。
響子は、作中でこの境地に達します。
そして、飛鳥も。
飛鳥は、演劇を始めた時からずっと、『舞台の暗がりの向こう側』の存在を知っていました。そこに入っていける人のことも。
飛鳥はずっと、そこに入るために演劇をやってきた人でした。
響子と飛鳥、天才ふたりの共演により、『舞台の暗がりの向こう側』の全貌があらわになりますが、彼女たちが覚醒していく描写が圧巻のひとことで、読んでいるだけで胸が熱くなりました。
物語のクライマックス、最大の山場であるこのシーンは、視点の切り替わりが激しいのですが、違和感を与えることなく視点を移動できる。
このあたり、恩田さんは本当にお上手。
響子が、飛鳥が、演技でぐいぐい観客をひっぱっていくのと同様、読者も恩田陸の文章に、ぐいぐいひっぱられていきます。
『チョコレートコスモス』は、こんな人におススメ!
『チョコレートコスモス』は、演劇の世界にどっぷり浸ることの出来る作品です。
しかし、演劇に興味のない人でも、十分に楽しめます!
もしかして、この作品をきっかけに、舞台を見てみたくなるかも…!?
- 『ガラスの仮面』が好きな方
- 熱いスポコン漫画がお好みの方
- 誰かの頑張る姿を見て、元気をもらいたい方