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『君の膵臓をたべたい』住野よる 猟奇的なタイトルに裏切られる

こんにちは、カピバラです。

『麦本三歩の好きなもの』に続き、住野よるさんの作品を読みました。

猟奇的なタイトルの衝撃に反する、感動的な内容で、一躍大ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』です。

カピバラ
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「余命を宣告された女の子と、男の子のラブストーリー」という、誤った先入観を見事裏切られました!

誰かの読む楽しみを奪いたくないので、ネタバレしない方向でレビューしていきます!

『君の膵臓をたべたい』あらすじ

高校生の「僕」は、病院で不思議なタイトルの本に出会う。

本のタイトルは、『共病文庫』。

それは、クラスメイトの山内桜良が書いた、秘密の日記だった。

桜良は、膵臓の病気を患っていて、余命1年を宣告されていた。

「誰にも内緒にして」という桜良と僕との、奇妙な交流がはじまった――。

2016年に本屋大賞第2位を受賞した本作が、住野よるさんのデビュー作です。

物語終盤まで、名前を明かされることのない主人公「僕」

山内桜良は、明るくて元気な、クラスの人気者。

一方、主人公の「僕」は、他人とかかわろうとせず、友達もいない、地味で孤独な男の子。

ふたりは、まるで正反対。

そんな「僕」が、桜良の『共病文庫』を見てしまったことで、秘密を共有する間柄になります。

桜良は病気のことを、クラスメイトには内緒にしています。もちろん、親友にも告げず、普通の日常生活を送っています。

桜良の家族以外で、彼女の病気のことを知っているのは、「僕」だけ。

「僕」の名前は、物語終盤まで明らかにされません。

桜良との会話の中で「僕」の名前が登場する時は、【秘密を知っているクラスメイト】くん、【仲良し】くんといった表現で称されています。

この小説は、「僕」視点の1人称。

「僕」が関心・興味があることしか、基本的に書かれていません。

他人に関心のない「僕」には、誰かから呼んでもらうための名前など、必要ない。

だから、物語終盤まで名前が明らかにされないのでしょう。

でも、桜良が呼ぶ「僕」の名前は

【地味なクラスメイト】→【秘密を知っているクラスメイト】→【仲良し】→【?????】

へと変化していきます。

「僕」と桜良との関係性が変わっていった現れですね。

カピバラ
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主人公の名前が、どうして終盤まで明かされないのか。ラストで名前が明かされたことにも、意味があります!

『君の膵臓がたべたい』に込められた意味

カピバラ
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最初にこのタイトルを聞いた時は、「食べたいくらいに君が好き」的な意味かと思っていました

猟奇的なインパクトを与えるタイトルですが、あらすじを聞いた時は、

「好きすぎて、相手を食べちゃいたいっていう感じかな?」

と思っていました。

愛するのと憎むのの、感情の出どころは同じ、みたいな。

カピバラ
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そんな単純な話じゃなかったよね

作中、このセリフは何度か出てくるのですが、ラストで本当の意味を知ることになります。

桜良と関わる中で「僕」が気づいたこと、桜良が伝えたかったこと。

タイトルの意味を知りたい方は、ぜひ読んでみてください!

余命宣告を受けているけれど、桜良が死ぬのは別の理由

ネタバレしないと言ったのに、ちょっとネタバレ(笑)

余命宣告を受けている桜良だけど、彼女が死ぬのは別の理由なんです。

ここでも、予想していたストーリーは裏切られました。

カピバラ
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病気で死ぬラストエンドを予想していたけど、違うの!?

実は、これにも意味がありました。

病気になったから死を強く意識して生きている、と思いがちだけど、それって、実は違う。

病気でも、病気じゃなくても、人間はいつかは死ぬ可能性を秘めているんです。

健康な人でも、明日交通事故に遭って、死んでしまうかもしれない。

世の中には、そんな理不尽さに溢れています。

ただ漫然と日々を送るんじゃなくて、「明日死んでもいい」と思えるくらい、毎日を真剣に生きなきゃダメなんだって、桜良に教えられました。

誰かに名前を呼んでもらうことの意味

桜良は、これまで他人と関わらずに生きてきた「僕」に、人と関わることの大切さを教えてくれました。

「君にとって、生きるってなに?」

そう問いかけた「僕」に、桜良はこう答えます。

誰かを認める、誰かを好きになる、誰かを嫌いになる、誰かと一緒にいて楽しい、誰かと一緒にいたら鬱陶しい、誰かと手を繋ぐ、誰かとハグする、誰かとすれ違う。それが、生きる。自分だったひとりじゃ、自分がいるって分からない

そうやって、誰かと関わって生きていくのに必要なもの。

それが、「名前」です。

自分ひとりの狭い世界で生きてきた「僕」には、誰かから呼んでもらう名前なんて、不要のものでした。

ですが、桜良と出会って、呼んでもらう名前が必要になりました。

「僕」は桜良から名前を与えられた、と言っても過言ではありません。

物語のラストシーンでは、「僕」の名前が明らかにされます。

それは、「僕」が自分だけの世界から抜け出して、人と関わって生きていくことへの暗示に他なりません。

『星の王子さま』へのオマージュ

本を読まない桜良が、唯一好きな本が、サン・テグジュペリの『星の王子さま』。

物語のところどころに、『星の王子さま』からの影響とみられる箇所が見受けられました。

例えば、「僕」と桜良の関係が、「ただのクラスメイト」から「仲良し」になるまでの過程などは、星の王子さまに、キツネが「仲良くなるとはどういうことか?」を教えたシーンに通じるものがあります。

また、友達でも恋人でもなく、どんな名前も当てはまらない「僕」と桜良の関係性も、『星の王子さま』のピュアな部分と似ています。

カピバラ
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私は「星の王子さま」が大好きなので、色々と胸にくるものがありました。未読の方は、合わせてどうぞ!『君スイ』の世界観が、より深まります♡

ラノベじゃない、新感覚の小説

文章自体は軽快で、イマドキの子特有の「ら」抜き言葉も多発されていて、読み始めから「若い。若いよ~」と、その『若さ』に気後れしてしまいました。

また、あまりにも現実感のない設定にも、最初は戸惑うことが多かったです。

カピバラ
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あまりにラノベ感が強いものには、違和感を感じすぎちゃうんです。私の頭が固いのかな…

もし、違和感を感じることがあれば、もう一度小説を読み直してみてください。

この小説は、2度読むことをおススメします!

違和感のあった文体も、2度読めば慣れますし、文体が馴染めば初見の印象が大きく異なることに気づくでしょう。

現実感のない設定についても、余計な情報や現実味を与えないことで、かえって二人の関係を崇高なものにさせる効果を生んでますし、テーマをわかりやすく伝えたいという、作者を意図を感じました。

カピバラ
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この小説、実はかなり計算されてるんじゃないかな。そういった意味でも、ラノベとは一線を画した、新感覚な小説という印象を受けました。

『君の膵臓をたべたい』映画では、12年後のストーリーが描かれている。

まだ観ていないのですが、映画では原作にない「僕」の12年後のストーリーが描かれています。

12年後の「僕」を演じるのは、小栗旬さん。桜良の親友、恭子は、北川景子さんが演じています。

どんな未来が描かれているのか。果たして、桜良が望んだ未来を、彼らは歩いているのか…?

かなり評判が高いので、これは絶対に観たいですね!